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高知地方裁判所 昭和51年(わ)280号 判決 1977年10月31日

本店

高知市本町三丁目三番四九号

商号

宮地電機株式会社

代表者

高知市神田九八二番地の三 宮地恒治

本籍・住居

高知市神田九八二番地の三

会社役員

宮地恒治

大正二年九月七日生

右宮地電機株式会社及び宮地恒治に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官萩原三郎出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人宮地電機株式会社を罰金二〇〇〇万円、被告人宮地恒治を罰金六〇〇万円にそれぞれ処する。

被告人宮地恒治においてその罰金を完納することができないときは、金三万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

理由

(罰となる事実)

被告人電地電機株式会社(以下被告人会社という。)は、各種電気工事の設計並びに施工請負、電気機械器具及び電気工事材料の販売等を目的とする株式会社であり、被告人宮地恒治(以下被告人宮地という。)は、被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統轄しているものであるところ、被告人宮地は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れる目的をもって、棚卸を除外するなどの方法により、その所得の一部を秘匿したうえ、

第一、 昭和四七年九月二一日から昭和四八年九月二〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が三億三四三八万四七五五円であったのにかかわらず、昭和四八年一一月二〇日、高知市本町五丁目六番一五号所在の所轄高知税務署において、同署長に対し、所得金額は一億六九四二万四〇〇三円でこれに対する法人税額が五九八〇万九五〇〇円である旨の虚偽不正の法人税確定申告書を提出し、もって右事業年度の正規法人税額一億二〇四二万六七〇〇円と右申告税額との差額六〇六一万七二〇〇円を逋脱した。

第二、 昭和四八年九月二一日から昭和四九年九月二〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が一億九三四九万九九九二円であったのにかかわらず、昭和四九年一一月二〇日、前記税務署において、同署長に対し、所得金額は一億五〇〇九万一四九四円でこれに対する法人税額が五七七一万四八〇〇円である旨の虚偽不正の法人税確定申告書を提出し、もって右事業年度の正規法人税額七五〇七万五三〇〇円と右申告税額との差額一七三六万五〇〇円を逋脱した。

(なお、右各所得の内容は別紙1、2の各修正損益計算書及び同3、4の各修正貸借対照表のとおりであり、各税額の計算は別紙5、6の各脱税額計算書のとおりである。)

(証拠の標目)

以上の事実は、

一、被告人宮地の第一・二回公判調書中の供述部分及び当公判延における供述

一、被告人宮地の検察官に対する供述調書

一、収税官史の被告人宮地(三通)、宮地彌典、久松啓一(三通)、片田重義(二通)、野村貞夫(三通)、竹内章夫、井上照義、浜口賢一、中山裕一郎、青野忠正、竹本昭、小田正忠に対する各質問てん末書

一、登記官作成の登記簿謄本

一、被告人の会社代表者作成の定款写

一、収税官吏作成の脱税額計算書(二通)、現金預金有価証券等確認書

一、栗田卓史、片田重義(三通)、野村貞夫作成の各上申書

一、小西重行(六通)、住友賢吉、坂本東海、加納靖之、野中末吉ほか一名、川村英夫、早岡秀夫、川沼登、小谷和子、近藤訓康作成の各証明書

一、収税官吏作成の査察官調書三通

一、押収してある金銭出納帳綴(二九期)、一綴、銀行勘定簿(二七期)、同(二八期)、同(二九期)各一綴、支払手形発行控一綴、手帳一冊、買掛帳(三〇期)一綴、銀行勘定帳一綴、入出金振替伝票一箱、封入計算関係メモ、金銭出納帳(二九期)一冊(以上昭和五一年押第九九号の一ないし一一)、二八期仕入帳四冊(同押号の一二の一ないし四)、二九期仕入帳二冊(同押号の一三の一、二)、封入手形一袋、封入事故関係書類一袋、二九期決算棚卸集計表一綴、手帳一冊(以上同押号の一四ないし一八)、領収書綴二綴(同押号の一九の一、二)、二九期確定申告書関係綴一綴、二八期確定申告書関係綴一綴(以上同押号の二〇、二一)

を総合して認める。

(法令の適用)

一、判示各所為 被告人会社につき法人税法一六四条一項、一五九条一・二項

被告人宮地につき法人税法一五九条一項(いずれも罰金刑選択)

二、併合罪の処理 被告人両名につき刑法四五条前段、四八条二項

三、労役場留置 被告人宮地につき刑法一八条

(被告人宮地につき罰金刑を選択した理由の要旨)

そもそも、法が脱税行為に対して刑事罰をもって臨む方式をとっているのは、その行為が単なるルール違反ではなく、破廉恥な詐欺罪的性格をそなえているからであると思料されるところ、本件は、二事業年度にわたり合計七七九七万円余にものぼる多額の脱税をした事犯であるから、特にその金額の点からして、被告人宮地の刑責は到底軽視することができず、同種事犯に対する量刑の実情等にも鑑み、同被告人に対しては相当の懲役刑をもって臨むべきではなかろうかとも考えられる。しかし、犯情について更に子細に検討してみると、本件脱税は、棚卸を圧縮除外するという手段によったものであって、営業上の積極的収入をことさらに隠蔽するような手段とやや趣を異にしており、また、被告人宮地がそのような手段に出たのは、不測の事故等により被告人会社の営業上不可欠の塩化ビニールが欠乏急騰したうえ、いわゆる石油ショックが勃発して異常な経済変動が起ったため、棚卸の評価を当時における最終仕入価格で行えば、やがて発生することが予想された暴落現象により、被告人会社が税負担に耐えかねるなどの窮地に陥ってその経営が破綻し多数の従業員及びその家族の生活に悪影響を及ぼすおそれがあることを憂慮し、企業の責任者として、なんとかそのような事態を回避し、経営の安定を図らなければならないという、やむにやまれぬ心情からであって、利己的に私利を貧り私欲を満たそうなどという目的はなかったこと、被告人宮地としては、脱税をしたままこれを放置しておくつもりはなく、次年度以降において適宜しかるべき調整をすることにより、やがては全体として実質的に脱税とはならなないような措置を講じるつもりであったのみならず、本件が摘発される前に、役員会で協議し、過少申告を是正するため、自発的に修正申告をする準備をしていたこと、本件脱税額は、前記のとおりかなりの多額にのぼっているが、その基礎となる所得には、実際上陳腐化して価値のなくなっていた在庫商品を正常な商品として評価したものが相当含まれており、また、逋脱行為により被告人会社に対する青色申告承認が取消され、それに伴い、さかのぼって、価格変動準備金が益金に戻入れられたことも、脱税額が多額に及んだ原因になっているが、これは、そういう事態に立ち至ることが申告書提出当時予期できるはずであったことからして、それ自体やむを得ないこととはいえ、いわば自動的に行われたものであって、犯罪行為としての所得秘匿行為そのものではないこと、被告人宮地は、従来は納税義務の履行について積極的な配慮をしていたし、企業経営者としても、社会に寄与するという精神をもって、着実な活動を続けていたものであって、本件については心底から反省改悟しており、再犯を犯すようなことはまずないと思われることなど、酌量すべき諸事情が認められるので、これらの事情を統合し、なお逋脱にかかる税額は重加算税等と共にすべて完納していることその他諸般の事情をもあわせ考えれば、本件は、結局、被告人宮地が前記のような心情から事態を憂慮するあまりに犯した根深さのない過ちであったとみられ、破廉恥性の度合いは軽度であって、実質的には犯情が特に悪質であるとはいえず、要するに、被告人宮地に対し懲役刑をもって臨まなければ刑の目的が達せられないというほどの断定はにわかになし難いところであるから、その点をこの際同被告人の有利に考慮し、今回のところは罰金刑を選択して主文のとおり量刑することにした。

以上によって主文のとおり判決する。

(裁判官 山脇正道)

別紙1(判示第一関係)

修正損益計算書

自 昭和47年9月21日

至 昭和48年9月20日

(注) この金額のうち309,419円については被告人宮地にほ脱の故意がないからこれを控除した334,384,755円が所得金額となる(別紙3の修正貸借対照表記載の金額についても同じ)。

別紙2(判示第二関係)

修正損益計算書

自 昭和48年9月21日

至 昭和49年9月20日

(注) この金額のうち2,971,382円は被告人宮地にほ脱の故意がないからこれを控除した193,499,992円が所得金額となる(別紙4の修正貸借対照表記載の金額についても同じ)。

別紙3(判示第一関係)

修正貸借対照表

昭和48年9月20日現在

(注) 別紙1の(注)参照。

別紙4(判示第二関係)

修正貸借対照表

昭和49年9月20日現在

(注) 別紙2の(注)参照

別紙5(判示第一関係)

脱税額計算書

(自 昭和47年9月21日

至 昭和48年9月20日

税額の計算

別紙5(判示第一関係)

脱税額計算書

(自 昭和48年9月21日

至 昭和49年9月20日

税額の計算

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